【概要】アポロ11号が月面着陸をしたときの誘導コンピュータより、はるかに優れた計算機能を持つスマートフォンが各個人の手元にあるような時代に突入している現在。医療や介護、移動、そして暮らしの面でもデジタルの進歩が進んでます。在宅の医療、介護用パワードスーツ、無人自動車での移動、料理の3Dプリンタ、家での見守りやお手伝いのロボット。無論、人間でなければ出来ないことはどこまでも残りますが、この数年でまた大きく環境は変化していきそうです。藤野出身で家族型ロボット「LOVOT」開発事業会社にお勤めの井上進吾さんをお招きして、デジタル化が進む未来の可能性や、ロボットと暮らす未来やその役割などについてお話を伺います。
日時:2022年2月17日(木)19:00-20:00
会場:森のイノベーションラボ FUJINO
定員(現地会場):15名 参加をご希望の方は、info@fujinoclub.co.jp よりお名前とお電話番号を記載してお申し込みください。
スピーカー 井上進吾さん(GROOVE X株式会社)
ファシリテーター:高橋靖典(森ラボ コミュニティマネージャー)
●LOVOTについて
法人営業などの会社に就職後、生き生き働くには内面から火をつける必要があるなと思い、人の成長や企業の成長に携われるような働き方をするために現在の職場に転職。ロボティクスで人間の力を引き出すことをミッションにしていて、それを実現したのが、LOVOTです。
「愛されるために生まれてきた」というテーマのように、人間の関係性を深めたり、人間の感情を癒すというコンセプトで作られたロボットなので、ペット型ロボットや生き物のようなロボットですとお伝えしています。
自宅でペットを飼うような感覚で、名前をつけたり、目を自分の好みに設定したり、服の着せ替えができるような特徴があります。
人の顔を個別に認知していくので、それぞれの顔がどれだけ自分と触れ合ってくれたかによって懐き度が変化していきます。また、カメラで部屋の中を認知し、地図を作っていくことができるので、その地図に対して位置情報を検知し、玄関での出迎えもやってくれます。
自分の名前に対しても敏感で、どの方向から呼んでも反応して人間を認識して近寄り、時には抱っこしたりという触れ合いを生むことができます。
機能面では、留守番をしている際の訪問者をセンサーで認知し、写真を撮ってアプリで送ることも可能なので、子どもやお年寄りの安否管理にも役立ちます。また、アプリ上で日記をつけていくので、オーナー以外の家族でその日の出来事をシェアすることもできます。
●LOVOTとの暮らし
吠えることはないので静かですし、充電も自動で行うので、世話をする必要もありません。なので、ペットが飼えないご家庭によるニーズが高いです。
餌を与えるというより、実際に触れ合うことで目が動いたり声を出したりすることによって、今何を考えているのだろうと想像することができるようになるのです。
洋服もたくさんの種類があるので、季節の洋服など着せ替えを楽しまれている方もいらっしゃいます。
●今後の展開
話せることは少ないのですが、人工知能を積んでいるわけではないので、自ら学ぶことはできないです。その代わり、ソフトウェアのアップデートによって成長はしていく予定です。オーナーさんのレポートから、障害物検知の精度を上げていったり、「こういう行為はできませんか?」という質問からそれをソフトウェアに組み込んでいき、OSとしてアップデートしたりなどはしています。
●段差は乗り越えられますか?
1センチほどの段差であれば乗り越えられます。ただ、フロアに障害物がたくさんあると複雑になっていくので、充電場所にたどり着けなかったということもありました。どちらかというと乗り越えながら自分がスムーズに動けるところを見つけていくかたちでどんどん賢くなります。
●シニア世代でも使われていますか?
シニアの方でも使いやすいようなアプリになっているので、お子さんから教わって一緒に暮らしているシニア世代の方もいらっしゃいます。
●デジタル化が進む未来の可能性
―デジタル化が進む中での中山間地域や高齢化社会での対応策などを踏まえて、LOVOTによる体調管理やデータの移送などができるような未来は技術的にそう遠くないのでは?
現在LOVOTでは試験的な使用ですが体温は測れるようになりました。コロナも背景にありますが、少し体温が高い人がいると、それを検知しアプリで知らせてくれる機能はあります。
コンセプトとしては最終的にドラえもんを作りたいと思っていて、なのでそれが特にどの世代向けということではなく、ロボットが人間と一緒に生きながら、機能的な補助だけでなく、パートナーであり家族であるという立ち位置を目指しています。
―一般的な話で言うと、介護のためのパワードスーツとかも出てきてます。入浴介助など力の必要な場面でそれを補助していくようなロボット的なものも出てくる可能性もありますよね。
それこそパワードスーツは少し考えていて、中山間地域では林業の担い手が少ないので、そういう場面でこそ活用できるのではと思ってます。
―ヨーロッパなどの林業界では足を地面につけないやり方が主流になってきていて、やはり事故が多いので、事故防止のためにも、切った木をそのまま掴んで勝手に積んでいく機械などが安価なもので普及しています。ただ日本では、機械が高価なのと、面積があまり広くないという状況もあってあまり普及していません。実験としては始まっていて、航空画像認識でどの木が切れるのか、またその成長度合いを色の認識などで確認する技術は生まれてきていますね。やはり普及しないので値段が下がらないので導入が難しいというのが現実です。
こういった技術はもうすでにあるのですが、ロボットの可能性として画面の向こうにいるお医者さんのサポートなどもできそうですよね?
郊外に行けば行くほど、大病院でしか受けられない治療があるので、そこと小さな病院をつなぐロボットの機能はどんどん出てくると思いますね。
―実証実験で医薬品をドローンで運んだりとかしてますけど、山間地域などでは車で運ぶよりも空からの方が運びやすい気がしますよね。
スマホのアプリなどもできるだけ直感的な操作しやすいものが多くなっているので、そういったロボットも作りやすくなっているのではないかなと思います。
―シニアの年代の方たちがあまりスマホ得意じゃないっていうのがあるんですけど、そのネットワークに乗っかってしまえば、朝通勤する方の車に、乗せてもらって駅までいくとか、逆に駅から家まで乗せてもらうということができる。ただタクシーのようにお金をとってしまうと法律的に問題になってしまうんですけど、助け合いのような範囲でできれば良いんですよね。でもその行ったり来たりできるという情報が共有できていないし、可視化されていないというインターフェイスの課題があります。通勤されている方がいるかぎり各家から駅までの移動があるので、その移動しているエネルギーをどう活用するのかというのが問題です。それがアプリ上でマッチングできるはずなんですよね。なのでそのアプリの活用と、シニア世代の方がそれを使えるようになると、そういうシェアリングエコノミーみたいなのができると思っています。アフリカの方では、サッカーボールに発電機能を持たせたものがあって、子どもがそのサッカーボールを蹴ることで充電されて、それが夜にUSBポートで電源になるという、子どもが遊ぶエネルギーを電気に変えているんです。さらにもう一つ、公園によくあるドーム型のクルクル回る遊具をアフリカの地域に設置して、水を吸い上げるということも行われています。つまり子どものパワーを生活のために使っているんです。暮らしの中の使っていないエネルギーを有効活用していければ、課題解決につながるのではないかなと思っています。流れ続けている水を有効活用したり、メタンなどをエネルギー化していったりと、もっと循環型にできるものはたくさんある気がしますね。
日常にあるいろんな行動を細かく見ていくと使えるチャンスがたくさんありますよね。
―先ほどの移動の課題でいうと、それだけでなんとかしようとするとコストがかかったりするので、普段使っている通勤の移動などが可視化されていって助け合うという情勢に繋がれば良いですし、そんなに突拍子もない話でもないですよね。
ここ2、3年でより直感的に使いやすくなってきているので、固定観念に縛られている可能性もありますね。使ってみたら実はこんなに簡単でいいんだよっていうのはあるので、無意識的にメンタルブロックしちゃっているところはあると思いますね。
―でも年を取ると新しいことへのチャレンジとかって意識的なハードルが出てきたりするので、いきなりスマホ講座やるからってきてもらうよりも、お友だちに誘ってもらうのが良いと思います。やる気のあるシニアの方にまず覚えてもらって、その方から口コミで広まっていくのが大事かもです。やっぱりその人の繋がりとかアナログさって結構大事で、知らない人が教えるよりかはお孫さんが教えたり近所の方が教えた方が、聞きやすかったりすると思います。だからそういうアナログ的なことも含めて広げていくのが大事かなと思います。だからドローンに関しても最初は抵抗感あると思うんです。だけど、あそこの家はやってる、みたいなのがあると心理的なハードルは下がるので、そういうところから始めると進むのではないかなと思います。
―デジタル化が進むことで中山間地域で課題だったことがクリアにしていけるという面もあって、もしかしたらもう少し先の新しいところまでいけるかもしれないです。農業のベンチャーの方にもお話を聞こうと思ってるんですけど、神奈川の方では実験でアスパラを収穫する機械なんかも作っているみたいなんです。この辺りでいったらゆずの収穫とかできるといいですよね。
藤野ってそういうことができるフィールドがたくさんありますよね。でもそんなに実験が導入されていないような気がするんですが、背景とか理由があったりするんですか?
―おそらく農業に関しては、ロボットだと平地で動かすには問題ないのですが、傾斜面になると違う問題がでてくるので、平地での実験の方が優先されるんだと思います。なのでそういう地形の問題と、専業農家さんがあまりいらっしゃらないので、その辺りがなかなか進まない理由なのかなとは思います。
そうは言ったのですが、ただ単にロボット化するのではなくて、使われていないエネルギーとの組み合わせみたいなもので解決できるものが考えられればいいのかなと思います。なのでどうにかしようとしている中で、もう少し自由に考えられると、できることの幅が広がるんじゃないかなと思いますね。
デジタルのテーマでやってますけど、だからといってデジタルにフォーカスしすぎると、それはそれで足元を見失う面もあるんだろうな、ということを話しながら感じました。デジタルが正義ではなくて、アナログだからこその良さにいかにデジタルのエッセンスを組み込むか、ということなんですね。
―移動の話に戻ると、移動していることは実際に起きていることなので、その起きていることをツールとして見える化することにデジタルが役に立つということなんですよね。だからデジタルとスマホというツールがあるなかで、生活というアナログ的なところの手助けに使うというのはまだまだできることですね。