2024年1月26日(金)に森のイノベーションラボFUJINOにて、NPO法人タネノバの首藤幸一郎さんの「タネノバの「子育てが孤立しない社会」〜子どもの発達支援 お話会〜」が開催されました、
首藤幸一郎さんは、14年間小学校教諭を勤め、そのうち7年間は特別教育支援担当を努めた経験を有する方です。また、小学校教諭を退職後に、NPO法人タネノバを設立し、フリースクール「タネノバのテラコヤ」や「放課後等デイサービスタネノバ」を開所し、発達支援が必要な子どもに対する実践活動に取り組まれています。
まず、不登校は文部科学省が定める「年間欠席日数30日」という定義であり、同省が令和4年度に実施した調査では、不登校の生徒は我が国に約30万人おり、過去最多を記録しているとのことです。同時に、増加率も急増しており、大きなの課題となっています。
ただし、保健室登校や別室登校、あるいは短時間登校等は不登校に含まれておらず、潜在的にはより深刻と言えます。また、平成30年度に日本財団が実施した中学生を対象とした調査では、文部科学省の定義外の「不登校傾向」は約33万人、全中学生の10人に1人(当時文部科学省が実施した調査の約3倍)という結果が出ています。つまり、文部科学省の定義の「不登校」よりも、広く捉えた「不登校」は、潜在的に相当な人数が存在するのではないかと首藤さんは警鐘を鳴らしていました。
首藤さんは、「学校に行かなくなると子育てのことで話せる相手がほとんどいなくなった」、「みんなと一緒の中で学ぶことも多いと思うが、それが全くなくなることは心配」、「同世代の子との関わりが欲しい」といった実際の親御さんの声を紹介していました。
そういった現状に危機感を感じた首藤さんは「まずは、今の子どもたちの姿を全肯定する場を、地域に作りたい」という思いのもと、子どもが安心できる居場所を作るべく「タネノバのテラコヤ」を始めました。「タネノバのテラコヤ」のルールは3つだけあり、「自分を一番大切にしよう」、「過ごし方は自由で選べるよ」、「誘われたら、やってもいいし、断ってもいい」という自由な雰囲気を軸に活動を展開しています。こうしたルールは、「あえて明文化した」と首藤さんは仰っていました。
「タネノバのテラコヤ」を訪れる子どもさんは、「学校に行きたくても行けず、居場所を求めて来ている子」、「学校での学びは合わないと感じ、学校以外の場で学びたい子」、「週の中で、フリースクールの日、学校の日など、回数を決めてくる子」、「毎日学校へ行き、ときどき息抜きに来る子」とさまざまだと言います。子どもたちにとって、さまざまな過ごし方を受け入れてくれる場所があることが、安心感に繋がるのでしょう。
首藤さんは「不登校」と「発達障害」との関係性について、「フリースクールや放課後等デイサービスには、発達障害の診断を受けている子どももいる」と断った上で、「学校や教室では問題行動になってしまう子でも、環境が異なれば全く問題にならない子もいる」と語っていました。首藤さんはそれを「車椅子」と「段差」に例えます。車椅子に乗る人は、段差がない場所では、自由に動き回れます。しかし、段差があると前に進めなくなってしまいます。こうした例示で首藤さんは「困難な状況は環境(段差)と個人(車椅子)の相互作用でできている」と話していました。
教育が目指しているのは「社会的自立」です。首藤さんは、公教育は「社会を形成する人材を育てるガイド付きツアー」であり、これは非常に充実している一方で、一度ツアーのルートを外れてしまうと、「生きる道を自分たちで切り開いていかなくてはいけない」、「道の見えない不安、先のわからない不安」と向き合う必要があると話します。ですが、社会的自立の仕方は人それぞれ、十人十色であり、沢山の人の力を借りて道を見つける必要があると首藤さんは仰っていました。
昨今子育てを取り巻く環境は厳しくなっています。とりわけ、「不登校」や「発達障害」といった困難を抱える子どもたちはより厳しい環境に置かれています。そうしたなか、今後はどういった形で社会が子どもたちを包摂できるのかが課題になってくると感じました。