2023年11月11日(土)に森のイノベーションラボFUJINOにて、小田急電鉄株式会社執行役員 デジタル事業創造部長 久富雅史さんや同部署の皆様をお招きし、「地域価値創造型企業に向けて〜小田急電鉄の新たな取り組み〜」と題したイベントが開催されました。
久冨さんは1991年小田急電鉄株式会社へ入社後、経理、経営企画業務に従事し、お堅い鉄道会社の風土改革、新たな経営ビジョンと中期計画の策定に取り組み、並行してモビリティやサーキュラーエコノミー領域などで新規事業創造を推進し、2023年4月からデジタル事業創造部長に就任されました。同部では、社会課題を解決し、持続可能な社会づくりを目指す事業創出に取り組まれています。
1927年に創業した小田急電鉄は、路線延長120.5キロメートル、年間7億人の乗降客数、沿線人口520万人を抱える会社です。同社は、1960年代には当時全国で最も速い列車だったロマンスカーを導入し、箱根ロープウェイの開発といった事業に参入し、現在では「まち」をつくる企業として発展を遂げています。
久冨さんはこれまでの小田急電鉄のビジネスモデルを「私鉄ビジネスモデル」と呼びます。それは「線路を作り、土地をつくり、地域住民に住んでもらい、スーパー等の施設を作る」ことにより、沿線人口を増やし、乗降客数を増やす取り組みです。久冨さんは「”まち”が成長すると小田急も成長する」と話し、反対に「”まち”が成長しないと小田急も成長しない」と話します。そうしたなか、「”まち”の課題を吸い上げて解決策を提案していくアクション」に注力しているそうです。
とりわけ、混雑緩和のために行われた複々線化工事は、同社の一大プロジェクトとして30年にわたる難工事だったと振り返ります。下北沢地区では、複々線工事によって線路を地下化した跡地を開発するにあたって、開発担当者が地域住民の意見を徹底的に調べて研究した結果、地域の魅力づくりを支援する開発スタイルに行き着きました。具体的には、開発しすぎずあえて「余白」を残し、地域住民主体のイベント開催ができる「空き地」や店舗前の共用部の利用に特徴のある「BONUS TRACK」ができました。
久冨さんは、今後の事業の展開を「郊外⇔都心から、視点をシフトし、地域の成長ポテンシャルを最大限引き出す地域経済圏をつくることへ経営の軸足を移しつつある」と話し、同社の事業は転換期にあたると話していました。
そうしたなか、同社は鉄道事業のみならず様々な部門より人材を集め、新規事業の立ち上げに取り組んでいます。
同イベントでは、「WOOMS」(ウームス)、「いちのいち」、「ハンターバンク」といった新規事業について担当している社員の方より説明がありました。
「WOOMS」(ウームス)は、ゴミの収集・運搬事業が直面する人手不足などの課題をデジタルで支援する事業です。具体的には、ゴミ収集車1台につき1台のタブレットを搭載し、ゴミ収集の状況を確認し、ルート分析/最適化といったソリューションを提供しています。従来、ゴミの収集はアナログであり、紙の世界で成り立っていたものの、デジタル化により一目瞭然に状況を把握することができるようになり、ゴミ収集事業の効率化に資する取り組みになっています。具体的には、デジタル化により、ゴミ収集車の収集量の把握ができるようになり、各ゴミ収集車の情報全体を把握し、空いているゴミ収集車が他のゴミ収集車へ応援に向かうといった形です。旧藤野町、旧相模湖町、旧津久井町でも実証実験が行われています。
「いちのいち」は、自治会向けのDXサービスであり、地域住民、自治会、行政だけのクローズドなシステムを提供し、自治会の情報発信、コミュニティ活動、予定共有等のツールとして活用することを想定しています。「いちのいち」の導入背景には、高齢者の社会的孤立といった課題があり、それをデジタル化により解決するソリューションを提供することを目指したそうです。
「ハンターバンク」は、獣害問題にフォーカスしており、狩猟に興味がある人と獣害に困っている人をつなげる事業を展開しています。獣害は160億円の農業被害を生み、昨今は全国的な社会問題にもなっています。しかし、狩猟者の高齢化は深刻であり、今後より狩猟者不足が深刻化することが懸念されています。そうしたなか、昨今の狩猟ブームも相まって、初心者(ペーパー)ハンターは増加傾向にあり、「ハンターバンク」は、そうしたハンターを実際に狩猟へつなぐサービスです。
最後に久冨さんは、小田急が手掛ける新規事業は「まちづくり企業として90余年の取り組みと地域と向き合ってきた信頼感に基づき社会課題を解決していく」取り組みであると語っていました。小田急沿線は多彩なまちがあり、日本を圧縮したような地域で、エリアごとに異なる社会課題を抱えています。そうした社会課題を吸い上げ、解決に導くことが、新しい「私鉄ビジネスモデル」となるのだと感じました。
小田急電鉄からの取り組み紹介の後は、参加いただいた地域住民の皆さんと、各事業ごとの質問や、この地域での課題の意見交換などが活発に行われ、新しい地域の取り組みにも繋がるように感じられました。