2023年10月16日(水)10:00~12:00に森ラボで「乳がん体験を語る ~伝えることの難しさ~」が開催されました。地域おこし協力隊の隊員を含めた参加者と共に、がんサバイバーである利隆屋(りこうや) あやのさん、がん当事者、医療関係者、地域住民が集まり、意見交換や質疑応答を行いました。
「がん」という病気は、生涯にわたり、実に日本人の2人に1人が罹患します。4人家族を例に取ると、全くがんに罹患しない家族がいる家庭は1/10ということになり、身近に潜む病気です。
今回のテーマである「乳がん」は、比較的生命予後がよく、早期発見かつ標準治療を受けた場合、5年生存率はほぼ100%です。これは、どの「がん」にも言えることですが、健康診断等を通じた早期発見が、がんの治療には重要です。
まず、利隆屋さんは、全体に向け、「1年に1回健康診断に行く」、「一次検査で要精密検査なら放置しない」、「がん家系でないから大丈夫と油断しない」といったアドバイスを投げかけていました。たとえば、「いつも◯◯に引っかかってるけど、検査してないよ」という声もあるとのことです。また、現代医学では、遺伝性がんは、がん全体の5%から10%しかないため、親ががんで無い場合でも油断は禁物です。
次に、利隆屋さんは、2021年12月に藤野地区に移住し、2022年3月に乳がんの確定診断(告知)を受けました。当時を振り返る利隆屋さんは、「まさか、私が」という気持ちになったそうです。当初は部分切除を検討していたものの、検査の結果、同年5月に乳房全摘術を受け、再発を防ぐホルモン治療を開始しました。乳房全摘術を受けた後は、手術痕を怖くて見ることができない、抗がん剤に対する不安といった落ち込んだ気分になったそうです。忙しい仕事の日々も重なり、がんについて思考する暇もなかったと語る利隆屋さんは、なぜ「伝える」活動を進めているのでしょうか。
利隆屋さんは、「伝える」ことの大切さを説きます。それは、他人に「伝える」ことにより「自分のがんを認めることができる」ためだとのことです。当初は自身のがんについて語ることに戸惑いがあった利隆屋さんは、少しでも「誰かの役に立てば」という心持ちで始めたそうです。
さて、利隆屋さんは3児の母の顔も持っています。いざ自身が乳がんの確定診断を受けた際には、「子どもにどう伝えるか」に最も悩んだといいます。そうした経験から、利隆屋さんは相談相手に「パートナー、子ども、両親、義理の両親、乳がんになったことのある知人友人先輩、職場の上司と部下、ビジネスパートナー、友人」を挙げていました。ただ、当事者は、他人の些細な言葉に左右されることもしばしばあるため、相手との信頼関係が重要です。また、ホープツリーというがんになった親を持つ子どもをサポートする情報サイトには、当事者や関係者の掲示板もあり、そうしたネットワークも活用できるそうです。
また、利隆屋さんは「大切な人ががんになった時にNG対応4つ」を挙げていました。第一に「にわかドクター」です。「にわかドクター」とは、不正確で曖昧な知識に基づいて、病院や治療法やサプリ等を勧める人を指します。そうしたアドバイスは、ときにがんの発見を遅くし、また治療へのアクセスを阻みます。第二に「押し付けアドバイス」です。これは、当事者に対して、アドバイスをして、コミュニケーションを取る人を指します。第三に「◯◯さんの体験談」です。一口に乳がんといっても、タイプはさまざまあり、当事者には当てはまらない場合もあります。また時に不安を煽る場合もあるため注意が必要です。第四に「気持ちを聞かない」です。特に確定診断直後は不安、混乱、悲しみの感情が強く出ます。そうした時に相手の気持ちを理解する姿勢を見せることが大切だと話されていました。
病気の当事者の家族は、「第二の患者」とも呼ばれます。ときに当事者を支えるために、自己犠牲を払い、体調を崩したり、生活に支障を来したりする場合もあります。利隆屋さんは、支える家族のポイントとして、第一に「寄り添う」(ボディタッチや同じ空間にいる。無理に言葉にせずとも問題はない。)、第二に「自分の生活も大切に」(意識的にリラックスできる時間と場所を取り、息切れしないようにする。)、第三に「傾聴する」(本人の心の声に真摯に耳を傾けること。話を最後まで聞いてあげる。)、第四に「共感する」(すべては理解できなくても、当事者が出す感情を我が事のように感じる。)を挙げられていました。
また、「がん」になった場合、日常生活はもとより仕事にも支障を来します。利隆屋さんは、手術前には、とにかくがむしゃらに仕事をすることにより、恐怖や不安から逃げていたと振り返ります。また、手術から3ヶ月あたりには、ホルモン治療も始まる頃合いにあたり、手術しても腕があがらない、メールの返信が遅くなる、集中力がなくなる、イライラする、そんな自分が精神的に嫌になる状況があったそうです。そして、3ヶ月経過後は、今までの仕事量の1/4、月30時間しか働かないと決め、それ以外は外注する方針を決めたそうです。データでは、「がん」で退職/廃業する人は2割にも上ります。がんと仕事の両立には、「焦らず、慌てず、まず相談」が大事だと語っていました。
がんと仕事の両立ステップとしては、
Step1:治療前
A.治療の見通しを主治医に相談確認
B.勤務先の健康保険制度を担当者に確認
C.どこまで誰に伝えるのかを検討
Step2:治療中
D.定期的に会社へ連絡
E.復帰に向けた準備
Step3:復職
F.復職前面談
G.復職に向けた準備
といった経過が考えられるそうです。
利隆屋さんは、「最善の治療を受ける患者力」として「情報の鵜呑みはNG(様々な媒体に医学的に正確ではない情報も含まれているため注意。)」、「抗がん剤を頑なに拒否する(吐き気等へのケアも進んでいる昨今の状況。)」、「標準治療=最善治療(とかく標準治療は平凡な治療と誤解されがち。標準治療は効果とリスクも検証した最も有効な治療である。)」、「ステージ4=余命数ヶ月(ステージ4と末期がんは異なる、5年生存率や余命は個人差がある。)」を挙げていました。また利隆屋さんは、「先生にすべてお任せする」時代ではなく、患者が主体的に治療に取り組む時代に入っており、「患者は司令塔」、「主治医は参謀」といった例も出していました。そして「がん」になった場合、お金の心配は頭をよぎることでしょう。その際は、高額療養費制度(収入に応じて月額負担に上限を設ける制度)、限度額適用認定(事前申請すると高額療養費制度が償還払いでなく現物給付される)、健康保険組合の傷病手当や付加給付、就業規則の確認といった制度面への心配りや生命保険や民間医療保険の再確認(1.がん給付金が付いているか?、2.通院給付金が付いているかどうか?)も必要です。昨今は入院期間が短く、通院による治療が標準になりつつあります。また、最低限必要な生活費の把握や貯金の状況の把握もしておくと安心でしょう。
最後に利隆屋さんは、客室乗務員転職支援スクールを運営してきた経験に基づいて「伝えることを磨いてきた」人生であり、「伝えること」の専門家だったものの、いざ「がん」になった際には、「家族に心配をかけてはだめだ」と我慢してしまい、本心は伝えられなかったという後悔の念もあり、自身の体験を伝えることにより、誰かの役に立つことを目指しているそうです。
2人に1人が「がん」になる時代、もはや「がん」は身近にある病気です。年に1度に積極的に健康診断を受け、要精密検査の検査項目はしっかり検査し、早期発見に務めることが大事です。早期発見の場合、生存率が上がるばかりか、身体への影響が少ない治療法も選択できる等、たくさんのメリットがあります。決して「がん」を「他人事」とは考えないことが重要だと感じました。
とかく「がん」に関する情報は玉石混交です。その時点で最も科学的に確からしい情報にアクセスし、信頼できる主治医と理解のある家族のサポートを受け、最適な標準治療を受けることが大事だと感じました。