今回は、森のイノベーションラボFUJINOのバリアフリープロジェクトにて実施しているロボット開発レポートの第1回をお送りします。
テレワークセンターと中山間地域の交流拠点の両面を併せ持つ、森のイノベーションラボFUJINOでは、2024年3月現在、18のプロジェクトがあり、各プロジェクトごとに様々な取り組みを行っています。
バリアフリープロジェクトの趣旨は「社会の中にある様々な「バリア」とは何かを考え、その解消を目指す手法や、バリアフリー社会に向けた取り組み」です。一般的に「バリア」とは、英語で「壁」を示す言葉です。その「バリア」は4種類あり、「物理的なバリア」、「制度的なバリア」、「文化・情報面でのバリア」、「意識上のバリア」に区別されます。
今回は「物理的バリア」の解消に焦点を当て、ロボット開発に取り組んできた篠部虹人(ささべ にじと)君の取り組みをレポートします。
篠部君をロボット開発へと突き動かしたのは、幼い頃より親交のある友人のお母様のがんの発覚でした。進行がんに侵された身体の自由は時々刻々と失われ、そのお母様はひとりベッド上で入院生活を送っていました。当時は、新型コロナウイルス感染症が流行していたことも重なり、家族も直接お見舞いに行けず、その友人は「いま母はどうしているのか」といった不安な気持ちが常にあったそうです。
そんな時、お母さんより「ベッドの上から家族と一緒に食卓を囲んだり、授業参観に出席したい」というメッセージが届きます。そこで篠部君は、「離れている家族をつなぐ、コミュニケーションロボット」の機能を有する「ロボくま」の開発に着手します。
「ロボくま」は、既製品の監視カメラをベースに、「マイク」、「スピーカー」、「カメラ」、「赤外線センサー」といったセンサー類を組み込みました。「ロボくま」は、「いつでもどこでもライブ映像」、「双方音声会話」、「簡単遠隔操作」を備えており、患者側にはタブレット端末、家族側にはロボくまを配して、離れていてもそばにいる感覚を体験できるシステムです。「ロボくま」は親しみやすく、また温もりを感じられるデザインとするために、「くま」をモチーフに、外見をハンドメイドで制作しました。
しかし、プレテストの12時間前に、その友人のお母様は、この世を旅立たれました。ロボくまの開発はストップしてしまい、篠部君は当時を「とてもショックで、誰のために作っているのかが、わからなくなってしまった。」と語ります。ただ、そのお母様の死というショッキングな出来事を目の当たりにした時に、改めてロボット開発の原点を思い直します。「このロボットは離れている家族を繋ぐコミュニケーションロボットであり、他にも困っている患者さんやそのご家族が沢山いる。そうした人にプロダクトを届けたい。」と思い直し、ふたたびロボット開発へ取り組むようになりました。